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Ayabex

おしゃべりな肛門

140318

パソコンを触りたてのころ、WindowsをやたらとdisってくるMacユーザーが気にいらなかった。
「俺ら、カッコイイんだもん、他とはちょっと違うんだもん」っていう態度が鼻について仕方がなかった。
それから15年間、Apple製品を避け続けた。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いシステムで、ATOKも使わなかった。りんごを食べるのもやめ、梨畑には火をつけた。

そんなわたしが、iPad Airを手に入れた。
きっかけは、「ちょっと好きになった男がそれを使っていたから」という、
Apple製品との15年間にわたる長い確執を実に馬鹿にしたものだった。

違うのだ。

この15年の間に、世界は変わってしまったのだ。
できるだけ目に入れないようにしてきたApple製品が、
iPhoneとやらの登場で、とうとう無視できない存在になってしまったのだ。

Apple製品から目をふさぎ、耳を覆う生活を終わりにしたい。
理由なんてなんでもよかった。
わたしはただ、和解のきっかけが欲しかっただけ。

ちょっと好きになった男には、フラれた。
恐らく、梨畑に火をつけたのがバレたのだろう。

初めて手にしたApple製品は、やっぱりカッコよかった。
充電のコネクタが汎用的でないことに、「他とはちょっと違うんだもん」臭を感じたが、
この程度なら目を薄めにつぶって我慢してもいいくらい、カッコよかった。

2月の寒い平日の午後、フル充電をしただけのこの新しい仲間を外に連れ出すことにした。
電車で遠出をする用があったため、車内で使用感をテストしようと思ったのだ。
スマホに慣れたわたしなら、大丈夫。
だって、あの子もアイツもあの男も、カンタンに使っていたじゃない。

名古屋鉄道小牧線は、弱い日差しの中をガタンガタンと穏やかに進んでいく。

わたしは、カバンからiPad Airを大事に取りだして、本体のフチをぐるりと撫でた。
そこで今更、USBスロットがないことに気がついた。
この野郎、外部メディアを受けつけない仕様になっていやがる。
やっぱり、いちいち鼻につく。

画面のボタンだって1個しかない。
「右クリックなんかありませんよ」仕様も踏襲しているわけだ。
やっぱりわたし、Apple製品のことが好きになれないかもしれない。

ちょっとムッとして、ボタンを強めに押した。
すると突然、女の声がして
「今日はそこには挿れないで! イヤーッ!(意訳)」みたいなことを叫びやがった!
正確には「尻を利用することはできません」だったのだけれど。
まるでわたしが、生殖を目的としない場所を利用して性的な行為に及んでいるようではないか。

慌てて、「待ってください! ワタシ痴漢なんかしてません!」のポーズで
両手を上げて首をブンブン振ってみせる。
しかし、平日午後の名鉄小牧線の車内には、痴漢冤罪を主張する自分と、
その膝の上に乗っているおしゃべりな肛門しかいなかった。

恥をかかされたわたしは、こいつを黙らせる方法はないものかと
本体をクルクルさせているうちに、イヤホンジャックが入りそうな穴を発見する。
わたしを陥れているのはここか、この穴か。この穴に何かブチ込んでやればいい。

カバンの奥からイヤホンコードを乱暴に引っぱりだして、
iPad Airにブチ込んでやると、女はイヤホンからくぐもった声を出すだけとなった。
ハハッハ、一丁あがり。
わたしの、勝ち。

口さえふさげばもう大丈夫。
それから約30分にわたって、iPad Airを蹂躙し倒した。
そこでようやく、画面のボタンを長押しすると、
Siriという音声アシスタント機能が起動するらしいことがわかった。
女は、ネット環境がないと使い物にならないらしい。
このiPad AirはWi-Fiモデルであるため、Wi-Fiの設定をしていない屋外ではまだ使えなかったのだ。

家に戻って自宅のWi-Fiになんとか接続し、今度こそシリを使ってやった。
手始めに「おまえを黙らせる方法」と囁いてみたら、
「えっ、わたしですか?」とかいうとぼけた答えが返ってきた。

そうだよ、お前だよ。

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