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Ayabex

■ 映画館における鼻水問題

ある日突然、のどの痛みに気がつきました。
わたしはまず、こののどの痛みが風邪以外のなんだろうかと悩みました。

なぜかというと、丈夫なわたしは、めったに風邪をひくことがありません。
だから、風邪だとかインフルエンザだとかって、わたしにとっては平凡な日常がちょっと楽しくなる新鮮なイベントなんです。

のどがちょっと痛いくらいで「風邪ひいちゃったかも!!」とぬか喜びをしてはならぬ、と、慎重に経過を観察しながら、本当に風邪だった場合に、それをしっかりと鮮やかな現実にするための工作活動をしました。具体的にいうと、濡れた頭で寝てみたり、濡れた頭で自転車に乗ったりする活動です。

努力って、報われるものですね。
わたしは、見事に風邪をひくことができました。やったぜ。
少しかすれた声は聞きなれなくて、自分の言葉なのに他人が話しているように聞こえて新しいです。
ずうんと重い頭をブンブンと振ると、ちょっと遅れて痛みがあらわれて面白いです。
一気に太い鼻水がとれたときは、最高に気持ちがいいです。
数日間、ウキウキと風邪モードを楽しみました。

ここで、問題が発生します。
わたしは、友人二人と映画館に行く約束をしていたのです。
映画館で鼻水をズルズルすすったり、鼻をチーンとかんだりすることは、人の迷惑になります。
それくらいは、わたしにもわかります。では、どうしてくれよう。

考えました。
まず、映画を見ている間、絶え間なく流れでてくる鼻水をせき止めるために、鼻の穴にテッシュを詰めることを思いつきました。

次に、テッシュをどうやって持っていくかを考えました。
なぜなら、病的に忘れっぽいわたしは「風邪をひいて鼻水がでるから、それをせき止めるために鼻の穴に詰めるテッシュを持っていこう」と決意したことを忘れてしまうからです。
出かける5時間前、まず、バッグにテッシュを入れました。
それから数時間後、「出かける直前に、気が変わって違うバッグを持っていく可能性がある」ということに気がついて、財布の中にテッシュを入れ替えました。
財布を忘れる可能性もないわけではないのですが、その場合は、映画館のトイレでトイレットペーパーを詰めればいいのです。多少硬いでしょうけど、人に迷惑をかけないためには仕方がありません。

不安は運よく外れ、わたしは用意したテッシュを持っていくことができました。
映画が始まってから、友人二人に気がつかれないように、そうっとテッシュを財布から取り出し、ゆっくりと縦に四つに裂いて、そのあとちぎって、小さく丸めて両の鼻の穴に詰めました。
テッシュを奥まで押し込むと、やや違和感がありましたが、人に迷惑をかけないためなので仕方がありません。

ここでわたしは、ふたつの不快感に気がつきました。
まず、持参したテッシュには、化学的な香りがついていたことです。
おそらく微香性なのであろうその香りは、鼻の穴の奥深くまでダイレクトに詰め込まれたときの香り具合まで想定されていなかったのでしょう。香りは、眉間に刺さりました。
次に、鼻の穴と丸めたテッシュとの間にできたわずかな隙間から漏れでる鼻息です。それは、普段とは違う勢いと軌道で鼻の下を撫でていきました。
でも、人に迷惑をかけないためなので、やはり仕方がありませんでした。

映画の本編の間中、このふたつの不快感はわたしを苦しめました。

でも、もっと苦しいことがありました。
わたしたちが観たのは『チョコリエッタ』という映画でした。
わたしは、それはチョコレートの話なのだろうと思いこんでいたので、頭の中をスイーツモードにして出かけたのですが、『チョコリエッタ』は、チョコレートの話ではなくて「チヨ子」の話でした。完全に裏切られました。
そのうえ、時間が2時間40分と、映画にしては長編で、じっと座っていることがちょっとだけ苦手なわたしはとてもムズムズしました。

耐えがたき三重苦に耐えしのんだ2時間40分後、映画から開放されたわたしがフンッと鼻をかむと、左の鼻の穴から、2時間40分もの長きにわたってせき止められた大量の鼻水とティッシュがでてきました。
右の鼻からは、まだ――。

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